水は命の源

ヤンガードリアスをご存知ですか?

                                筑後川水の友 上村 洋司

 

 今年初めて上陸するかと懸念された台風13号は、日本列島をかすめるコースで大きな被害をもたらすこともなく通過しました。  上陸台風10個の2004年とはまさに両極端の現象を我々に示してくれました。
ことほどさように我々を取り囲む自然は単純な想定とか楽観で御するにはあまりにも巨大で超複雑な世界であるとの微少な証左でしょうか。
最近、にわか勉強をした地球の歴史の一こまについての話題を提供しようと思います。
 いきなり長大なそして悠久な地球の歴史から話をおこしましょう。
 地球が誕生してからの46億年は、まさに灼熱地獄とも云える火の玉からスタートして間もなく(と言っても38億年前頃)海が誕生して以来、温暖な時期と氷河期を繰り返しながら現在に至っています。  寒冷な氷河期氷期においては地球全体があつい氷で覆われる全球凍結が(赤道付近が千メートルの氷に覆われた。)、数度に亘って発生したこともあるのです。 
 また、中生代ジュラ紀、白亜紀(2億5千万年から6500万年前)は非常に温暖で、地球上に氷河はなく、恐竜が闊歩しておりました。
 現在は、氷河学的な分類では南極大陸やグリーンランドそしてヒマラヤ等の高標高の山岳部に氷床の存在することから氷河期であり、中でも比較的温暖な間氷期に属しているのです。
そして、最終氷河期氷期の最寒冷期はおよそ2万年前とされており、日本列島およびその周辺では、海岸線の低下によって北海道と樺太、ユーラシア大陸は陸続きに、現在の瀬戸内海や東京湾もほとんどが陸地に、また、東シナ海の大部分も陸地となり、日本海と東シナ海をつなぐ対馬海峡もきわめて浅くなり、対馬暖流の流入が止まったと言われています。
  この最寒冷期以降現在まで直線的に温暖化しなかったことは云うまでもありません。 寒に振れたり、暖に振れたりを繰り返しながら温暖化へ収束してきたのですが、その途上で記録された、まさにドラスティックな「寒の戻り」が約1万2千年頃の北半球の高緯度で起こったヤンガードリアス(Younger Dryas, ヤンガードライアスとも云う。)期であり、それに先立つ、契機となった「暖の卓越」がアレレード期なのです。

 

このヤンガードリアスという言葉は、アルプスやツンドラに生息するドリアスDryas octopetalaという植物から命名されたもので、平野部の寒冷化した時代の地層にこの高山植物の痕跡が発見されることから、それぞれの寒冷期にこの名前を冠して命名しています。 ヤンガードリアスの以前の寒冷期はオルダードリアスと、その前は、オルデストドリアスと呼ばれています。
このドリアス、日本では北海道や中部山岳地域の亜高山帯にまれに生息しており、発見者須川長之助にちなんでチョウノスケソウ (長之助草)と呼ばれています。   バラ科、 【花期】 7〜8月 【草丈】 10〜20 cm

   北海道 大雪山

 

(写真は、ホームページ「花ママと花パパの野の花・山の花 北海道」から引用しました。)

 

 さて、本題に戻りますが、驚くべきは、このヤンガードリアス期では百年から数十年の期間で気温が6℃低下するなど寒冷化の程度がすさまじく、グリーンランドの山頂部では現在よりも15℃寒冷であったこと(グリーンランドの氷床コアデータ)、イギリスでは年平均気温がおよそ−5℃に低下し、高地には氷原や氷河が形成され、氷河の先端が低地まで前進しており、1300 ± 70年間続いたとされています。

 

 そして、むしろこちらに関心があるのですが、その契機となった先立つ温暖期アレレード期では、太陽活動が活発であったためとされていますが、僅か10年で約7.7℃以上の温度上昇が生じたとされています。
※  昨年2007年に発表されたIPCC(気候変動に関する政府間パネル)第4次報告書では、「21世紀中に温暖化はどこまで進むか」に関して最悪のシナリオである高成長型社会の場合で5.8℃としております。

 

このため、それまで北大西洋中緯度までしか北上できなかった暖流のメキシコ湾流が現在の海洋大循環と同様に高い緯度まで達するようになり、その放出された熱によりヨーロッパは高緯度まで温暖化が進み大陸氷床は急速に縮小してゆきました。
北アメリカにおいても氷床は融解し、後退してゆき現在の五大湖よりさらに巨大なアガシー湖が形成されました。 当初は、そこからあふれた大量の淡水はミシシッピー川を通ってメキシコ湾に注いでいましたが、氷床の北への後退によってセントローレンス川の流路が氷の下から現われ、アガシー湖の水がセントローレンス川を通って北大西洋に流出するようになりました。
この膨大な量の淡水は、比重が海水より小さいこともあって北大西洋の表層に広がり、海洋大循環を構成するメキシコ湾流の北上と熱の放出を妨げた結果、ヨーロッパは再び寒冷化し、その影響が世界に及んだとされています。
※ 大阪府羽曳野市古市の湿原での花粉分析の結果、11,000年から10,200年前に厳しい寒冷化が進行したことがわかっています。
これほど規模が大きく急激な気候の変化はその後起きていません。
氷期と間氷期の変動に関連して、アメリカ国防総省が専門家に依頼して作成した地球温暖化の影響による大規模な気候変動を想定した安全保障についての報告書(Schwartz, P. and Randall, D. 2003)の存在が2004年に明るみに出て注目を集めたそうです。  それによると、地球温暖化による海流の変化が原因で、北半球では2010年から平均気温が下がり始め、2017年には平均気温が7から8℃下がり、逆に南半球では、急激に温度が上がり、降水量は減り、旱魃などの自然災害が起こるとされているとのことです。
最近の地球温暖化に関するマスコミ報道等を聴いているといろいろな疑問を覚えます。 二酸化炭素の排出増によって地球の温暖化がもたらされ、南極、グリーンランド、高山の氷床、氷河の融解による海面上昇、温暖化に伴う異常気象の発生頻度の増加、そしてこれらに伴う様々な被害の発生が懸念されています。
二酸化炭素の排出増はそれほど地球の気象に影響を及ぼすものでしょうか。
省資源、省エネのための排出規制は大いに歓迎するとしてもいささか短絡した議論がまかり通っていないか。
過去の歴史をざっとなぞっただけでももっと巨大な神の力が働いているように思えるのですが。

 

参考資料
  フリー百科事典「ウィキペディア(Wikipedia)」の「ヤンガードリアス」、「氷河期」、「最終氷期」等 
安田喜憲著「気候変動の文明史」